右に左に忙しい

首相辞職から総選挙に至るまでの道筋が見え始めたので、あらためて意味を持ってくるのだろうけれど。

小林多喜二の「蟹工船」ブームに乗る共産党の地方行脚に従来の支持層を超えて関心が集まっている。格差問題に対する取り組みなどが評価され、昨年9月以降の10カ月間で約1万人が新規に入党。次期衆院選をにらんだ幹部の演説会には1カ所平均約1300人が集まる。接点のなかった業界団体や保守系地方議員との対話も行われ、国政の長期低迷脱却への期待がふくらみ始めている。

一応、記事を見る限り新規入党した1万人が「若者」だとか「ワーキングプア」だと判断できる材料はない。蟹工船ブームだって、そもそも誰が買っているのか明らかですらない。引用部分の後に続く流れを見る限り、無党派層になっていた高齢の元共産党社会党支持層が流れ込んできているのでは、という感触もある。

だいたい、00年代の前半にあれだけ右傾化とかネット右翼とか騒いでいたのだって、本当に若者が中心だったのかどうかすら定かではないのだ。社会学者らによる「あれはガチじゃなくてネタで引きずられているだけ」論というのもあったけれど、そんなことより重要なのは、どのくらいの率でそういう連中がいたかどうかだろう。幾人かの文系の大学教員に言わせると、だいたい教室の1割程度ってところだそうで。まあそんなもんだろうな。

検証しなければならないのはおおむね次の3点。(1)00年代前半の「右傾化」、後半の「左傾化」を支えていた(いる)のはどのような層なのか、(2)両者は同じ人間によって担われている傾向なのか、(3)それは05年9月の衆院選以降の選挙動向にどの程度の影響を与えたのか。政治学者は、最低でもこの辺を検証しなければいけないはずだ。文化現象として「右・左傾化」の動機や要因を探るのも、読み物としては面白いけれど。

この問題を実証的に調査するのが困難な理由は、たとえばそれが「若者の文化現象」と考えられる限りにおいて、全国での大規模な調査を行うに足る調査費用を捻出するのが難しくなる(大した問題じゃないから)とか、そもそも科研費の基盤研究(A)、(B)あたりを取れる偉い先生にこの問題に対する理解がないとか、選挙動向と別枠に「右・左傾化」を測る指標が明確でないという技術的問題とかいろいろある。でも共産党員1万人増加、選挙はもうすぐ、という状況に鑑みれば、若手の先生方もそろそろ偉い先生を抱き込んで実証調査をやるべきタイミングだと思う。なんなら学会で音頭取りをやってもいいはずなのだ。日本の学会に予算がないのは分かっているけれど、所属している研究者が共同で取り組むべき研究プロジェクトに対する提案が少なすぎないか、というのは以前からの不満で、それじゃあ文系の学者なんていらないと言われても仕方ないよなあと。