ネット調査にメリットはあるか

これねー、頭の痛い問題なのよ。

ネット調査は面接に比べて迅速で、経費も10分の1に節減できる利点があるが、内閣府政府広報室は「現時点で世論調査がネット調査に置き換えられる可能性は、ほぼない」と分析している。

スピードと経費というメリットがあっても、そもそもネット調査の時点でランダム・サンプリングとは言えないデータになるので、「日本人の意識」みたいなものに関してはまったく役に立たない。所得関連もそうだろう。「日本の情勢」を示す統計データとしてこんなもの出したら、比較可能性が著しく低いということで、日本の公的データは役に立たないと言われるだろう。国際比較の分野でも、非OECD加盟国との比較なんかで、この辺はいつも悩ましい問題になる。

他方で、属性が偏っていることを根拠にした推計の材料としてネット調査を使うのは、しばらくの間はアリなんじゃないかと思う。一般に公的な調査で回収率が落ちる若者や非正規雇用層なんかをきちんとフォローできるというのがその理由だ。他方で、企業がサービスで展開しているネット調査の場合、(1)回答者が主婦などに偏る(小遣い稼ぎ名目で登録し、時間のある層が回答しやすくなるので)、(2)サービスによっては政治的な質問をさせてくれない場合がある、(3)あらかじめ目標回答数を設定し、先着順で受け付けた場合の偏りがどの程度なのか推測しにくい、などの問題もある。記事にもあるとおり、質問項目と目的を絞れば、いまは明らかになっていない問題を浮き彫りにできる可能性はある。

もっとも、こんなものはあくまで手法の話だ。データがあるかないかではなく、調査で明らかにされる問いが、果たして現在において意味のあるものなのか、どのような問いと、それを明らかにする手法が求められているのかといった、根本的な論点に踏み込まないとどうしようもない領域はいくつも存在している。日本の数量調査(業界)には、個人の問題と関係なく官僚的なところがあって、最新の手法の導入や新しい問題への取り組みより、過去のデータとの比較可能性みたいなことが重視されてしまう場合がままある。やらないよりはそれでもマシだが、時として厳密な正しさよりも優先されるべき事柄というのは、確かに存在するのだ。