ビジネスパーソンが読むべき社会科学書籍(の一部)
「コンビニ売りのビジネス誌」というと、もうその時点で役に立たなそう、あるいは即物的すぎる、と決めてかかっていたのだが、昨日見つけた『PRESIDENT』08年3月31日号の特集「一流が読む本、二流が好む本」は、割に面白かった。どうせ宗教まがいの自己啓発と司馬遼太郎なんでしょ、と思いきや、哲学や社会科学の書籍もそこそこに取り上げられている。
PRESIDENT (プレジデント) 2008年 3/31号 [雑誌]
- 出版社/メーカー: プレジデント社
- 発売日: 2008/03/10
- メディア: 雑誌
- 購入: 2人 クリック: 25回
- この商品を含むブログ (11件) を見る
ま、冒頭から「本はただ読むだけでなく『気づき』が重要」だの「脳の回転数が上がっている状態で本を読め」だの書かれているのだが、その辺はとばして「役職別 『一歩抜きんでる』貫禄の126冊」のパートへ。タイトルはアレだが、役職別に見てみる。
新入社員
あまりここで取り上げるべき本はない。経営者の自伝や自己啓発本、なぜかビジネスパーソンには人気の般若心経本などが並ぶ。挙げておくとすれば
- 作者: 大野耐一
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 1978/05/01
- メディア: 単行本
- 購入: 7人 クリック: 138回
- この商品を含むブログ (123件) を見る
くらいだろうか。新入社員は自己啓発しながら奴隷のように働けということか。紹介者は、プレセナ・ストラテジック・パートナーズ代表取締役の高田貴久氏。
中堅社員
うってかわって組織論の本が登場。中堅は辛いのだな。社会科学方面で言うと
- 作者: マックスヴェーバー,大塚久雄
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1989/01/17
- メディア: 文庫
- 購入: 19人 クリック: 289回
- この商品を含むブログ (260件) を見る
- 作者: 戸部良一,寺本義也,鎌田伸一,杉之尾孝生,村井友秀,野中郁次郎
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1991/08/01
- メディア: 文庫
- 購入: 55人 クリック: 1,360回
- この商品を含むブログ (304件) を見る
- 作者: ニッコロマキアヴェリ,Machiavelli,池田廉
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2002/04/25
- メディア: 文庫
- 購入: 16人 クリック: 79回
- この商品を含むブログ (69件) を見る
- 作者: 高橋伸夫
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2004/01/17
- メディア: 単行本
- 購入: 6人 クリック: 52回
- この商品を含むブログ (67件) を見る
あたりが重要だろうか。『失敗の本質』くらいは学生のうちに読んでおきなさいとも思うが。紹介者は丸善代表取締役社長の小城武彦氏。
部課長2
幅の広いセレクションだが、以下の三点をピックアップする。
- 作者: サミュエル・ハンチントン,鈴木主税
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1998/06/26
- メディア: 単行本
- 購入: 17人 クリック: 915回
- この商品を含むブログ (88件) を見る
- 作者: 野中郁次郎,竹内弘高,梅本勝博
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 1996/03/01
- メディア: 単行本
- 購入: 13人 クリック: 103回
- この商品を含むブログ (69件) を見る
- 作者: ジークムントフロイト,Sigmund Freud,渡辺哲夫
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2003/09/01
- メディア: 文庫
- 購入: 3人 クリック: 43回
- この商品を含むブログ (37件) を見る
営業マン
営業は別に男だけでは、などと『PRESIDENT』に求めても仕方ないか。
働くということ - グローバル化と労働の新しい意味 (中公新書)
- 作者: ロナルド・ドーア
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2005/04/25
- メディア: 新書
- 購入: 10人 クリック: 193回
- この商品を含むブログ (70件) を見る
- 作者: 竹森俊平
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2007/10/12
- メディア: 新書
- 購入: 11人 クリック: 177回
- この商品を含むブログ (85件) を見る
女性社員
女性と男性では自己啓発の源がいかに違うか、ということを知るためにこそ役立つラインナップなのだが、取り上げるのは以下。
- 作者: エーリッヒ・フロム,日高六郎
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1952/01/01
- メディア: 単行本
- 購入: 27人 クリック: 216回
- この商品を含むブログ (139件) を見る
- 作者: トーマスフリードマン,伏見威蕃
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2008/01/19
- メディア: 単行本
- 購入: 14人 クリック: 119回
- この商品を含むブログ (111件) を見る
- 作者: トーマスフリードマン,伏見威蕃
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2008/01/19
- メディア: 単行本
- 購入: 7人 クリック: 39回
- この商品を含むブログ (70件) を見る
紹介者は、NPO法人 J-Win理事長の内永ゆか子氏。
役員・社長候補
候補、というのはどの程度までを指すのか分からないが、以下は誰にも重要。
イノベーションのジレンマ 増補改訂版 (Harvard Business School Press)
- 作者: クレイトン・クリステンセン,玉田俊平太,伊豆原弓
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 2011/12/20
- メディア: 単行本
- 購入: 59人 クリック: 811回
- この商品を含むブログ (397件) を見る
感想
時代が変わったなあと思うのは、『日本人とユダヤ人』ほか、ユダヤ関係の書籍が目立たなくなり、アメリカ系の経営理論が伸びていることか。
- 作者: イザヤ・ベンダサン,Isaiah Ben-Dasan
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1971/09/30
- メディア: 文庫
- 購入: 3人 クリック: 54回
- この商品を含むブログ (45件) を見る
その昔、ビジネスパーソンが世界で仕事するといえば、キリスト教やユダヤ教、イスラム教についての知識が役に立つと思われた時期があった。中国哲学もしかり。おそらく現在では、グローバルなビジネス環境に適応した人びととのネットワークの方が重要になっているので、その辺を勘案する必要はないと思われているのだろう。これは社会科学のトレンドそのものの変化とも大きく関わる。マルクスやヴェーバーは、社会哲学であると同時にビジネス書になり得た。だから小室直樹だって受け入れられた。その役割が終わったとは思えないが、そんな余裕はないということだろうか。というよりむしろ、その種の本は、実際の仕事の現場で「奴ら」とコミュニケートする過程でどうしても「グローバル・スタンダードに収まりきらない残余」が気になりだしてから読めばいいのかもしれない。
同誌では他にも「『実践で役立つ』傑作150」でダンコーガイ氏がドラゴンボールを勧めていたりと愉快な部分もあるので手に取ってみるといいのではないか。